魔法の腕

3Dプリントの「外骨格」 - 少女が腕を動かして遊べるように

Megan Lavelleさんはこの装置を見た瞬間、これが娘の人生を変えることになるだろうと確信しました。Lavelleさんはエネルギッシュで行動力のある母親です。彼女の末娘Emmaは、先天性多発性関節拘縮症(AMC)を患っています。Lavelleさんはフィラデルフィアで開かれたAMC患者の家族の会合で、ヒンジで連結された金属製のバーとチューブバンドで作られた補助装置、Wilmington Robotic Exoskeleton(WREX)のことを知りました。腕に発育不全のある子どもでもこの装置をつければ、遊んだり、自分で食事を取ったり、ハグしたりできるようになります。

AMCは、関節拘縮、筋肉の著しい発育不全を引き起こす非進行性の疾患です。Emmaは、脚が耳のところで折り畳まれ、肩が内側に入った状態で生まれました。「Emmaは親指を動かすことしかできませんでした。」とLavelleさんは言います。医師はすぐに手術を行い、Emmaの脚にギプスを付けました。Emmaが自宅に帰ってきたとき、両親は最善の治療を行うという決意を固めていました。

AMCのため、Emmaは正常に発育することはまずないだろうと医者は忠告しました。Emmaの発育は平均的な子どもよりもずっと遅く、2歳になるまでほぼいつもギプスをつけ、何度も手術を受けました。Emmaが姉のように遊んだり振る舞ったりできないのを見てLavelleさんは、Emmaの認知能力の発達も阻害されてしまうのではないかと内心心配していました。

このオーダーメイドの整形外科装置のおかげで、Emmaは自分で食事を取ったり、塗り絵をしたり、ハグしたりすることができます。

成長していこうという決意

しかし、Emmaはゆっくりですが確実に前進していきました。Emmaが成長し、歩行器を使って動き回れるようになるにつれて、彼女は強い心の持ち主で、母親と同じ決意を持っている様子が見えるようになりました。2歳のときはまだ自分の腕を上げることができませんでしたが、利発な少女であるEmmaはいろいろなことをしてみたいと考えていました。「ブロックで遊べないときなど、Emmaは本当にイライラしていました。」とLavelleさんは言います。そこでLavelleさんがEmmaの腕に代わってブロックを積み、食事をさせ、彼女の歯を磨きました。

その後、WREXと出会いました。カンファレンスのデモンストレーションで、8歳のAMC患者が両腕を上げて自由に動かしているのを目にしたのです。LavelleさんはプレゼンターのTariq Rahman博士(小児科エンジニアリングおよび研究部門の責任者)とWhitney Sample氏(研究設計者)に会いました。二人ともデラウェア州ウィルミントンのネマーズ/アルフレッドI.デュポン小児病院から来ていました。Rahman博士とSample氏は、子どもや若年患者向けの装置の小型化に長年取り組んでいました。WREXを車椅子に取り付ければ、6歳以上の子どもは使うことができます。しかし、Emmaは2歳です。年の割に小さく、しかも歩行には問題ありません。

3DプリントしたカスタムWilmington Robotic Exoskeleton(WREX)によって、小さなEmmaは関節拘縮にもかかわらず両腕を使うことができます。

道具や装置で溢れているSample氏の作業場で、動きのぎこちない試作版の小さなWREXを、担当チームがストラップを使ってEmmaの小さな腕に取り付けました。「Emmaはそのまま手を伸ばして何となく動かしました。」とSample氏は語ります。Lavelleさんはあめ玉とおもちゃをEmmaに渡し、そして娘が生まれて初めてあめ玉を自分の手で口に運ぶのを見守りました。

小さなごほうび


このような小さくて特別な瞬間に立ち会って、深く感動せずにはいられませんでした。」

Whitney Sample氏
研究設計エンジニア

Rahman博士とSample氏は、Emmaが作業場の外でWREXを装着できるようにするため、WREXのサイズと重量を小さくする必要がありました。各部品があまりにも小さく細かいため、作業場のCNCシステムでは作ることができません。ところが、Sample氏のデスクの近くでストラタシスの3Dプリンタがブンブンうなっていました。この3Dプリンタを使えば、コンピューター設計を基に複雑な物体を自動作成できます。さながらインクジェットプリンタのように、しかも3次元で作成できるのです。Sample氏はしばしば3Dプリンタを使用して物理的モデルを作成し、いろいろなアイデアを試していました。そこで彼はWREXのプロトタイプをABS樹脂で3Dプリントしました。軽量化されたことで、Sample氏はEmmaのサイズに合わせたWREXを小さなプラスチック製ベストに取り付けることができました。

3DプリントされたWREXには、毎日の使用にも十分な耐久性が備わっていることがわかりました。Emmaは家や幼稚園で、また作業療法中にWREXを装着しています。3Dプリンティングによる設計は自由度が高く、アイデアをCADで設計してその日のうちに成形できるため、Sample氏はこうした補助装置を継続的に改善することができます。

現在15人の子どもたちが3DプリントされたカスタムWREX装置を利用しています。Rahmanの説明によると、WREX装置がこれらの小さな患者たちにもたらす恩恵は表面的なものだけではありません。腕を長い間使わないでいると、子どもたちの成長が妨げられ、認知能力や情緒の発達に悪影響を与える可能性があります。腕を早期に動かすことによるメリットを解明するため、医者や作業療法士はEmmaを綿密に観察しています。

ネマーズ病院の小児科エンジニアリング研究ラボにある作業場で、Whitney Sample氏は15人の小さな患者たちのため、カスタムWREX装置を開発および3Dプリントしました。

アームライトのばねがライトを空中で支えるように、チューブバンドが腕にかかる重力を軽減します。

Emmaは、WREXによって解放された能力をすぐに喜ぶようになりました。「Emmaが腕を動かしたいというそぶりを見せたら、私たちは2階(Sample氏の作業場)に行き、『Emma、これからWREXをつけますよ。』と言っていました。EmmaはWREXを魔法の腕と呼んでいました。」とLavelleさんは語ります。

少女がWREXを気に入ったということは、意志の強い母親や献身的な研究者にとって文句なしのごほうびです。Sample氏は次のように言います。「このような小さくても特別な瞬間に立ち会って、深く感動せずにはいられませんでした。」

WREXは、ネマーズ/アルフレッドI.デュポン小児病院で開発されました。同病院の詳細はNemours.orgをご覧ください。