検索結果に戻る Completed fencing swords and prototype hilts

筑波大学

オリンピック フェンシング チームの
メダル獲得をサポート

「金型や切削加工をやっている時間はなく、3D プリンタなしではとてもできなかった」
— 国立大学法人 筑波大学
 スポーツ R&D コア 研究員
 武田 理氏 氏

アスリートの武器を磨く

Developer with customized hilt in hand

ヒルトを3Dデータ化し
選手の要望を加えてカスタマイズする
武田氏

数々のトップアスリートを輩出し、スポーツサイエンスやオリンピック教育の分野で世界的に名高い筑波大学。近年、同校は、文部科学省から委託を受けたチーム「ニッポン」マルチサポート事業研究開発プロジェクトで競技用具の研究開発を行っている。とくに2012 年ロンドンオリンピックでは、フェンシングのヒルトを選手の要望に合わせてカスタマイズし、銀メダル獲得に貢献した。この用具開発で威力を発揮したのは、ストラタシスの3DプリンタObjet350 Connexだ。

チーム「ニッポン」マルチサポート事業

Customized hilts CAD drawing

滑り止めパターンまで再現した
ヒルトの3D CAD データ

各国が威信をかけて戦うスポーツの祭典、オリンピック。2008年、文部科学省はメダル量産を目標にチーム「ニッポン」マルチサポート事業を立ち上げた。アスリート支援、研究開発、大会でのサポートハウスの設置運営を三つの柱に、研究者や支援企業のスタッフ総勢500 名余りが競技団体やアスリートをサポートする。

研究開発を総括するのは、スポーツサイエンスやオリンピック教育で名高い筑波大学。競技用具・器具、トレーニング、コンディショニングの3領域で研究開発を行い、用具開発では体操競技のプロテクター、やり投げ用シューズ、トライアスロン用ウェア、セーリング用マスト、バドミントンのフットワーク評価システムなど多くの実績を挙げている。

「大学や研究機関がアスリートをサポートすることは国としてメリットがある」と話すのは藤井範久(ふじい・のりひさ)教授。筑波大学体育系でヒトの動きの解析や力の測定を行う研究分野バイオメカニクスの教鞭を執る。チーム「ニッポン」マルチサポート事業では、競技用具・器具の研究開発を担当した。2012年のロンドンオリンピックで銀メダルを獲得したフェンシングチームの用具開発も教授たちのチームの仕事だ。

世界にたったひとつの用具

Objet350 Connex

筑波大学体育総合実験棟(SPEC)に
設置されたObjet350 Connex

「多い時には1回に試作品を6個、7個と持っていきました」。筑波大の体育総合実験棟(SPEC)の一室で武田理(たけだ・おさむ)氏はそう話す。目の前では3D プリンタが静かに稼働し、アスリートの「足」を造形している。氏は藤井教授と同じくバイオメカニクスを専門とする研究員で、フェンシング日本代表選手団の用具開発を現場で支えた。

横の机を見るとフェンシングの剣の「ヒルト」(グリップ部) の樹脂製モデルが無造作に積まれている。20近くあるが、これは造形した試作品のほんの一部だという。「ロンドンオリンピックでは、選手全員で70個以上は作りました」。

試作に使用したのはストラタシスのObjet350 Connexだ。PolyJet 方式(インクジェット紫外線硬化法)マルチマテリアル対応の3D プリンタで、Z 軸16μm の造形精度を備え滑らかな表面も再現できる。微細な違いが勝敗を左右するオリンピックの用具開発には不可欠なツールだ。

フェンシングのヒルトは、世界にたったひとつしかないあつらえ物。選手はそれが手にフィットするよう自分でヤスリがけをしたり、滑り止めの刻みを入れたりする。もし壊れればもう二度と手に入らない。武田氏の仕事は、この手作り品を3D データ化し選手の要望を加えてカスタマイズすることだった。

時間は限られている。プロジェクト開始が2011年7月、翌年7月にはオリンピックが始まる。選手の海外遠征や本番前の試用期間を考えると、実質的な開発期間は半年あるかないか。「金型や切削加工をやっている時間はなく、3Dプリンタなしではとてもできなかった」と話す。

スキャンデータから理想のヒルトへ

最初は何もかもが手探りだった。競技のルールも剣の握り方もわからない。そこで手始めに武田氏は、代表選手たちから使用している用具を借りてそっくり同じものを作ることにした。3Dスキャンでポリンゴンデータを作成、それを3D CADに取り込んだのち、3Dプリンタで造形した。いわゆるリバースエンジニアリングの手法だ。一週間後、試作品を持っていくと選手の目の色が変わる。門外漢の武田氏が、長年のノウハウの結晶であるヒルトとほぼ同じものを作ってきたからだ。金属と樹脂との違いはあれ、形状や滑り止めのパターンなどは実物とほぼ同じだった。

これによって信頼が生まれ、選手たちは武田氏にいろいろと要望を伝えるようになった。武田氏は選手の言葉を取り込んだ試作品をすぐに持っていく。「アスリートたちは欲しいものをすぐ試したがるので、どれだけ早くそれを提供できるかが重要です」と武田氏は話す。実験棟の部屋でバリエーションを模索し、Objet350 Connexで造形して持っていくと、選手たちの信頼感はさらに高まった。

微妙な違いを段階的に加えて試作するカスタマイズ工程にObjet350 Connexは威力を発揮する。武田氏は握りの形状や滑り止めのパターンを変えたヒルトをあれこれと造形した。「選手たちはエンジニアではないので、要望を感覚的に話します。その意を汲みとって、こうではないか、ああではないかというパターンをいくつか持っていきました。とくにObjet350 Connexならそれも簡単にでき、しかも精度が出るので柔軟かつ迅速に対応することができました」。

1%への貢献と大きな成果

2012年4月、本番3ヶ月前にヒルトは完成した。代表選手たちの要望に応えてカスタマイズされた理想のヒルトだ。しかも武田氏は各選手にそれぞれ5本のスペアを届けた。「壊れても替えがあるというのは安心です。今回のプロジェクトの最大の成果はそこにあるかもしれません」と氏は話す。フェンシング日本代表選手団は苦闘を制してロンドンオリンピックを勝ち進み、念願のメダルに輝いた。

「オリンピックのメダルは99%がアスリートたちの血のにじむ努力の結果。おそらく用具がそこに果たす役割はほんの1%、あるいはそれよりも少ないかもしれない」と藤井教授は話す。しかし、表彰台の上のメダルの輝きは、その1%への貢献が決して無駄でなかったことを物語っている。「一人のトップアスリートへの用具開発が、スポーツを愛する人々の用具の進化につながることもあるし、そうなってほしい」と武田氏は話す。

 

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