3Dプリンタコラム

3Dプリンタ活用のためのヒント 第5回

3Dプリンタ、進化の行方

2015年9月11日  執筆者:水野 操

2012年頃に急に湧き上がった3Dプリンタブームも、それから約3年たちある意味で健全な落ち着きを取り戻しつつあるようです。もちろん、これは3Dプリンタブームが終わったのではありません。物珍しさで集まった人は去ったかもしれませんが、本来使うべき人たちは、むしろブームをきっかけに使い始めています。筆者が受ける相談も、むしろ最近のほうが、3Dプリンタ(のみならず、3Dデータの活用全般)に関するものが増えてきているように思います。
それにともなって、今後はどうなるのか、という質問もよく出てきます。

民主化と高度化、二方向への進化

3Dプリンタは、工作機械の一種ではありますが、他の種類の工作機械と大きく違う点が2つあります。それは、本格的な製品開発での活用は難しいもののプロでなくても使える安価な3Dプリンタと、本格的な製造業でも使用することのできる高度な機械の存在です。特に、高度な機械の場合には、製造業のみならず、医療や建築土木のニーズに合わせた新しい3Dプリンタの開発といった従来の製造業の枠にとらわれない進化が始まっています。この流れは、今後も続いていくと思われます。


つまり、3Dプリンタの機械としての性能がどんどん進化していく「高度化」と、3Dプリンタ自体が従来の製造業にとどまらず、直接ものづくりに関係のある産業やひいては、趣味などの一般の人たちに広がっていく、という「民主化」の2つ異なる方向への動きが続いていくことが考えられます。 021_01

3Dプリンタ活用の高度化への方向

3DプリンタとデジタルABSを活用し、簡易的な金型製作を行ったうえでパーツ自体を製造していくデジタルモールドなど、3Dプリンタを活用した金型の製造サイクルの効率化などは、かなり注目度の高い分野です。さらにこの展開は製造業の中だけにとどまるものではありません。


元々、3Dデータの活用や3Dプリンタ活用のノウハウを持つ製造業が他の業種とコラボレーションをすることも増えてきています。その展開先の一つが医療分野への展開です。例えば、変形性脊髄疾患の治療に用いられる金属製のインプラントの試作に対して、この分野の事業を進めてきた製造業の会社が開発に協力するなどの事例が出てきています。金属製のインプラント自体は、以前から試みられてきているので、必ずしも新規性があるわけではないですが、従来大学の研究室レベルで行われてきたものに対して、造形の記述に長けた製造業の会社がノウハウやサービスを展開し、異業種間のノウハウや技術が結びつくことによって、さらに新しい分野の技術が発達することも考えられます。3Dプリンタや3Dモデリングのソフトウェアの高度化と同時に進む低価格化によって、製造業をはじめとして様々な産業のデジタル化が一気に加速し、業種のボーダーレス化が進み、製造業が他の産業の高度化を支援することも考えられます。


筆者自身も、3Dプリンタブーム以降に歯科技工の業界などにも関わり始めていますが、この世界でもスキャナーの活用から3Dプリンタによる造形までの流れに大きく進展しつつあります。


スペースの関係でここではとりあげませんが、専門の業界紙を見れば、毎日のようにデジタルなものづくりの情報と3Dプリンタがあらたな事業に展開されている情報は日々増え続けていることがわかります。


3Dプリンタの展開が、3D CADをはじめとするソフトウェアの製造業への展開を後押ししているともいえるのではないでしょうか?よく言われることですが、3Dプリンタは3Dデータがなければただの箱です。そのため、最近では3Dプリンタの導入にともなって、3D CADを導入するというケースも増えているようです。


しかし、3D CADが作るデータは、言ってみれば「バーチャルなモノ」です。製造業はモノをつくる業種である以上、モノを造形する技術がなくてはお話になりませんが、一方で設計情報がどんどんデジタル化する中で、ものづくりはある意味でパソコン上での作業という側面が増えてきたことは否めません。3Dプリンタをはじめ今後展開される新たな製造業の技術はデジタル情報を活用することが大前提になるでしょう。


もちろん、それらのデジタル情報をさらに活用すべく、3Dプリンタの性能自体もさらに進化することでしょう。

進む3Dプリンタの民主化

ほとんどの技術は、導入が進み、普及を始めると一気に低価格が進み、その技術は良くも悪くも陳腐化が進みます。これは悪いことではなく、少し前まで大企業しかつかなえなかった技術を多くの人が使えるようになるということです。そのことによって、素晴らしい発想はあるのに、そのアイデアを実現することができなかった人たちが自分たちのアイデアを現実のものとできるようになります。

一人メーカーをはじめとする小規模メーカーは、3Dプリンタをはじめとする民主化したテクノロジーがなければ、実現は難しかったかもしれません。もちろん、3Dプリンタだけ、という何か一つの大きな飛び道具があったわけではなく、3D CAD、インターネット、クラウドファンディング、クラウドソーシング、その他のソフトウェアやクラウドのテクノロジーやサービスなどどれ一つとっても外せないものがたくさんありますが、3Dプリンタもその中で重要な役割を果たしていることを否定する人はいないでしょう。

高度成長期から、モノを作る人たちとモノを使う人たちが完全に分離するという状況が加速してきました。


しかし、家庭でも使用可能な安価な3D CADや3D CGや3Dプリンタの普及によって、この分断が、またゆるやかにつながることになるかもしれません。


もちろん、手放しでこのようなことが起きるかどうかは、なんとも言えません。やはり、それには、3D CADや3Dプリンタを、子どもたちをはじめ、普段ものづくりに関わっていない人たちがこれらのテクノロジーに触れる機会が増えることが重要です。

さらに言えば、製造業の従事者をはじめとして、普段からものづくりに関わっている人たちも、仕事に関係のない日常で、このようなテクノロジーに触れるようになることも大事かもしれません。

筆者が、理事をしている3D-GAN(3Dデータを活用する会)では、3Dプリンタの親子体験講座を数多く開催していますが、家が汚れない新しいカタチのものづくりのホビーに魅力を感じる大人も少なくないようです。


アイティメディアのウェブサイト上で展開されている3Dデータの共有サイトでは、この仕組を加速するために、かなり頻繁にコンテストなども開催されています。3Dプリンタブームが起きた2012年から2013年にかけて、3Dプリンタですぐに出力することもできる、3Dデータの共有サイトが日本でも立ち上がってきました。しかし、失速せずにユーザーが継続的に参加しているものは必ずしも多いとはいえないでしょう。本当のものづくりの民主化のためには、ブームに関係なく、地道に使ってもらう人を増やし続けるサイトやサービスがさらに増えることも重要でしょう。


3Dプリンタ自体は、ものづくりの高度化に大きく貢献する道具であるのは間違いありません。しかしさらに民主化を進めるためには、筆者もそうですが、製造業に関わる人たちが、そのための活動をきっちりと進めることができるかが重要だと言えるでしょう。

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水野 操
大手PLMベンダー、外資系コンサルティングファームにて自動車、総合家電メーカーの3D-CADやCAE、PLM導入に携わったほか、プロダクトマーケティングや新規事業開拓に従事。 2004年11月に有限会社ニコラデザイン・アンド・テクノロジーを起業し、代表取締役に就任。オリジナルブランドの製品を展開しているほか、マーケティングや3次元CADやデータ管理をはじめとするIT導入のコンサルティングを行っている。著書に『絵ときでわかる3次元CADの本』(日刊工業新聞社刊)他多数。また、専門誌やウェブメディアに連載多数。

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