3Dプリンタコラム

世界の事例に学ぶ、3Dプリンタの今とこれから 第4回

3Dプリンタが拡げるテーラーメイド医療の世界

2015年5月21日  執筆者:前田 健二

テーラーメイド医療という言葉をご存じですか?テーラーメイド医療とは、患者一人ひとりの病状や体質、あるいは遺伝子の構造に合わせて治療を行う医療のことです。これまでの医療は患者一人ひとりではなく、それぞれ共通の病気や怪我を抱えた患者の集合を一つの単位として設定し、その単位において最適な医療を求めるという、いわば医療効果の最大公約数を求めるタイプの医療が一般的でした。
母集団を統計学的に評価して最適解を求める医療、と言ってもいいかもしれません。


一方、テーラーメイド医療では患者一人ひとりをそれぞれ個別の、多様な個性を持ったユニークな個体として扱います。同じ人間とはいえ、患者は皆独自の個性を持った存在です。同じ病気にかかるにしても体質、病態、手術や投薬への反応、副作用等々それぞれ個性があるのです。テーラーメイド医療は、患者のそうした個性に注目し、一人ひとりに合わせた医療を正にテーラーメイドで行うのです。
そして、3Dプリンタがこのテーラーメイド医療の実現と進化に一役買っているのです。

始まりは矯正歯科の世界から

患者に装着されたアライン・テクノロジーの矯正機器

アメリカにアライン・テクノロジーという会社があります。アライン・テクノロジーは1997年にスタンフォード大学の学生であったジア・チシュティ氏とケルシー・ワース氏が設立した矯正歯科用医療機器製造ベンチャー企業です。同社は創業当初よりCADと3Dプリンタを使ってアライナーと呼ばれる矯正機器の製造を行い、現在までに業績を大きく拡大させています。


アメリカでは歯並びを気にする人が多く、少なくない数の人が矯正機器を使って歯並びを矯正します。それまでは、ワイヤーを使って歯並びを矯正するのが一般的でした。ところが、このワイヤーを使う矯正方法には患者に苦痛を強いることと、一度装着したら一定期間取り外せないといったデメリットがありました。
また、何よりも患者一人ひとりを個性をもった存在として見て、それぞれに最適な治療法を策定するというコンセプトが欠如していました。


アライン・テクノロジーは、患者を十把一絡げにしてワイヤーで締め付けるというものではなく、それぞれの患者の葉並びを3Dスキャナで読み取り、それぞれに最適なモデルをデザインし、そのデザインに合わせて3Dプリンタでマウスピース型の矯正機器を製造します。
スキャンされたデータはデータセンターに送られ、専門の矯正歯科医師がコンピュータでシミュレーションを行い、最適な治療計画を策定します。患者と歯科医師は3Dモデルと治療計画を共有し、理想的な歯並びのデザインを事前に確認し、最適な医療を受けることが出来ます。


1999年に300人の患者に施療してスタートした同社の事業は、2014年には全世界で7億6,170万ドル(約914億円)を売上げるビジネスに成長しています。

人工骨、人工関節、テイラーメイド医療が静かに拡がる

ネクスト21が東京大学、理化学研究所と共同で開発した人工骨製造用3Dプリンタ

東京都文京区に株式会社ネクスト21 という会社があります。同社は1989年設立の医療機器メーカーで、2002年に人工骨成型方法に関する特許を出願、以来3Dプリンタで人工骨を製造、東京大学の研究チームと人工骨を使った治療の共同研究を行っています。


人の骨は部位毎に形状が複雑で、また一人ひとりに応じて異なるため、3Dプリンタを使った人工骨の製造には様々なメリットがあります。特にこの領域は患者の骨の形状や状態に応じた人工骨の製造が迅速に行え、さらに結果的に治療スピードそのものがアップするというメリットがあり、正にテーラーメイド医療の効果が十分に発揮されています。


ところで、同社の人工骨は骨代謝し、「人間の骨のように、元の骨にくっつき同化して骨代謝に取り込まれる」ため、代謝循環に乗せられて最終的には患者自身の骨になるそうです。


同社以外にも、患者の体内に埋め込む人工関節を3Dプリンタで製造したり、患者の細胞組織をもとに作られたバイオインクを使い、3Dバイオプリンタで患者の臓器を作るプロジェクトなども立ち上がっています。
このように、近年の3Dプリンタの医療現場への普及が、最近まで夢物語と思われていたようなテーラーメイド医療を現実のものにさせ始めているのです。

さらに拡がる医療での3Dプリンタの活用

 株式会社JMC が作成したヒトの頭蓋骨モデル。術前シミュレーションで使われる

テーラーメイド医療が象徴するように、医療の世界では3Dプリンタの活用がどんどん拡がっています。特に臓器立体モデル作成、人工骨・インプラント等人工臓器製造、再生医療用3Dバイオプリンティング、歯科医療の領域において3Dプリンタの活用が急速に拡がりつつあります。


テーラーメイド医療はまた、iPS細胞に代表される再生医療と連動しつつ領域を広げています。特に現在世界中で開発が進む3Dバイオプリンタのほとんどは、何らかの再生医療とセットになって開発が行われています。この領域は、将来的には医療の世界に非常に大きなインパクトを与えることになるでしょう。


3Dプリンタの性能向上と価格低下が進む今後、医療の世界で3Dプリンタの活用がさらに進むことは間違いありません。
今から十年もすれば、今日では想像すら出来なかったようなパラダイムシフトが医療の世界で起こっていることでしょう。

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前田 健二
1966年東京都生まれ。1990年大学卒業後渡米し飲食ビジネスを立上げ、帰国後内航海運企業、ネットマーケティングベンチャーなどの経営・起業に携わる。2001年より経営コンサルタントとして活動を開始。製薬会社の再生、ベンチャー企業の経営支援等を経て、現在は3Dプリンタビジネスを含む新規事業立上コンサルティングを行っている。

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