3Dプリンタコラム

世界の事例に学ぶ、3Dプリンタの今とこれから 第3回

3Dプリンタ、宇宙へ行く 究極の自己完結的モノづくりが始まった

2015年4月7日  執筆者:前田 健二

3Dプリンタ、宇宙へ行く

昨年2014年9月23日、人類史上始めての画期的な出来事がありました。米フロリダから打ち上げられたアメリカのドラゴン宇宙船に搭載された一台の3Dプリンタが国際宇宙ステーションISSに届けられたのです。このニュースは一般にはあまり大きく報じられませんでしたが、3Dプリンタ業界関係者の間では非常に大きなニュースとなりました。


無重力を意味する「ゼロG3Dプリンタ」と名付けられたその3Dプリンタは、アメリカのベンチャー企業メイド・イン・スペースが開発しました。メイド・イン・スペースはNASA傘下のシンギュラリティ大学の学生アーロン・ケマー、ジェイソン・ダンらが立ち上げた会社です。設立当初から宇宙空間で稼働出来る3Dプリンタの製造を事業目的にしています。宇宙ステーション内で3Dプリンタでモノづくりをするというアイデアは2011年にNASAの正式プログラムに採用され、それから三年の年月をかけて「ゼロG3Dプリンタ」が開発されました。


メイド・イン・スペースが開発した世界初の宇宙用3Dプリンタ「ゼロG3Dプリンタ」

なんのために宇宙で3Dプリンタを?

ところで、シンギュラリティ大学の学生達はなぜ宇宙空間で稼働出来る3Dプリンタを開発しようと考えたのでしょうか。


ご存じの通り、宇宙ステーションは地上から隔絶された一つの閉ざされた空間です。地上との物的なやり取りは宇宙船を通してしか行うことが出来ません。食糧や水などの生活物資を始め、衣類、衛生用品、工具、各種の機械や装置、各種の部品、検査用具等々、あらゆる物資は年に数回打ち上げられる宇宙船に運んできてもらうしか手に入れる方法がありません。


一方、宇宙ステーションとは人が普通に生活する空間でもあります。人が生活する以上、そこで使われる色々なモノが壊れたり不具合を生じたりすることは普通に発生します。例えば、トイレの取っ手が壊れてしまったとか、機械の部品が曲がってしまったとか、地上の生活と同様に予期せぬ出来事は起きるのです。


そうした場合、例えば壊れてしまったトイレの取っ手をどうするのか。年に数回打ち上げられる宇宙船に運んでもらうのを待つのか、あるいはトイレの取っ手を運ぶためにわざわざ宇宙船を打ち上げるのか(ちなみにドラゴン宇宙船の打ち上げにはカタログスペックで約42億円の費用がかかるそうです)。そこで、シンギュラリティ大学の学生達は、それならば宇宙ステーション内で自分達で作ってしまえばいいと考えたのです。そのためのツールとして3Dプリンタに白羽の矢を立てたのです。

「ゼロG3Dプリンタ」でプリントされたパーツ

3Dプリンタによる、究極の自己完結的モノづくり

メイド・イン・スペースによると、国際宇宙ステーション内で使われているあらゆる部品のうち、かなり多くのものが3Dプリンタで製造可能だそうです。先程の壊れてしまったトイレの取っ手の場合、壊れた部品の3Dデータを地上のメーカーから送ってもらい、3Dプリンタでプリントしてしまえばいいというわけです。あるいは、最初から自分達で3DCADソフトを使って3Dデータを作り、プリントしてしまえばいいわけです。この、いうなれば究極の自己完結的モノづくりが、宇宙空間で現実のものになりつつあるのです。


メイド・イン・スペースは今回のプロジェクトが成功した後、より大型の3Dプリンタを開発し宇宙へ送る予定です。同社では国際宇宙ステーションのみならず、将来予定されている火星への有人探査にも3Dプリンタの活用を検討しています。また、メイド・イン・スペース以外に欧州宇宙局も「オンボード・3Dプリンタ」と名付けられた3Dプリンタを今年六月に打ち上げられる予定の宇宙船に搭載し、国際宇宙ステーションへ輸送する予定です。


自己完結的モノづくりは宇宙ステーション以外にも

ところで、アメリカ海軍も3Dプリンタを自己完結的モノづくりに活用しようという実験を始めています。アメリカ海軍は昨年、空母エセックス艦内に3Dプリンタを設置し、パーツ等の製造を行う試験プロジェクトを開始しています。


遠洋海上にある空母も宇宙ステーションと同様隔絶された空間ですが、同様に各種の部品等が壊れ、交換が必要になるそうです。その場合、部品を供給してもらうにはそれなりの手続きや作業が必要で、またそのために港に立ち寄る必要も生じます。一方、艦内の3Dプリンタで自分で作れてしまえばそうした一切の事が必要なくなります。空母エセックスでは現在、乗組員達が3Dプリンタを使ってプラスチック製シリンジ、オイルタンクのフタ、モックアップ用模型飛行機といった様々なモノを作っているそうです。3Dプリンタが実際に軍艦内で本格的に使われるようになるにはまだ時間がかかりそうですが、自己完結的モノづくりが実現した場合、既存の軍事戦略にも影響を与えかねないインパクトが生じることになるでしょう。

航海中の空母エセックス

実際のところ、私達の周りを見てみても自己完結的モノづくりの恩恵が受けられそうな空間は少なくないことに気づきます。人里離れた山村、孤島、紛争地帯、船舶、潜水艦、航空機、高山施設、炭坑、トンネル、数え挙げたらきりがありません。3Dプリンタは、私たちに自己完結的モノづくりというまったく新しいコンセプトをもたらしてくれました。3Dプリンタによる自己完結的モノづくりは、私達の今後の生活を大きく変えて行くことになるのは間違いないでしょう。

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前田 健二
1966年東京都生まれ。1990年大学卒業後渡米し飲食ビジネスを立上げ、帰国後内航海運企業、ネットマーケティングベンチャーなどの経営・起業に携わる。2001年より経営コンサルタントとして活動を開始。製薬会社の再生、ベンチャー企業の経営支援等を経て、現在は3Dプリンタビジネスを含む新規事業立上コンサルティングを行っている。

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