3Dプリンタコラム

ボーダー・クロッシングによるクリエイティブの未来 第2回

More Than Human-テクノロジーとヒューマニティの融合を目指して

2015年3月30日  執筆者:XSENSE 小林 武人

テクノロジーと“発想”の両輪

3Dプリントのテクノロジーは素晴らしいものです。この技術の将来を見据え、少しだけ強調して言えば、社会の在り方を変えるポテンシャルを持ったテクノロジーだと言えます。3Dプリンタは製造は元より、流通の方法/考え方も刷新するでしょうし、造形の観点から見ても、今までは実現が難しかった形状を制作できる、人間の精神とプロダクトをダイレクトに繋ぐツールといえます。
 
3Dプリンタのテクノロジーの発展段階としては未だ黎明期であり、未来のインフラとなるにはもう少し時間がかかるかもしれません。必要なのは、マテリアルや機械としての開発だけではなく、技術を“どう活かすか”という発想の部分が欠かせません。技術自体とそれをどう活かすかという“発想”は両側の車輪であり、どちらかが欠けてもテクノロジーは前に進みません。
 
テクノロジーの発展は純粋なエネルギーの流れであり、それは歴史の中で加速度的にスピードを上げてきています。環境問題のことについて考えみましょう、産業革命以降技術が発展することでヒトは地球の環境に大きな負荷をかけてきました。
人類全体が狩猟採集社会に戻れば環境の問題は解決するかもしれませんが、それは不可能な話です。川の流れを考えてもわかるように、流れを逆流させることは無理でも、流れを方向づけてあげることは可能です。テクノロジーの問題はテクノロジーによって解決するしかないのです。
 
人間は肉体的に進化することをやめ、種としてのアビリティをアウトソーシングするという選択をしました。よってテクノロジーの進歩の方向性を“意志の力”でコントロールし、正しい方向性(もっともそれが“正しい”かどうかは後の歴史が判断することですが)に人類が発展/進化していくという不断の努力がヒトには課せられているのです。それがヒトが“進化”するということなのです。

More Than Human プロジェクト

デジタル・アーティスト:小林武人 美術家:坂巻善徳a.k.a sense 今回紹介するのは『More Than Human』(以下MTH)プロジェクトです。MTHはアートプロジェクトXSENSEから派生したプロジェクトで(前回ブログ参照)美術家:坂巻善徳a.k.a senseとデジタル・アーティスト:小林武人(著者)のユニットです。
XSENSEは純粋にアートプロジェクトですが、MTHは“アートの力”で成し得ることを、社会や個人にむけて還元していこうという考えに根ざしています。3Dプリントの自由度の高い造形力を活かし、アートな義肢、医療機器を制作していく、というのがMTHの目的です。ギャラリーや美術館に収まっているアートもありますが、アートはもっと人口に膾炙し、ヒトとヒト、ヒトと社会を繋ぎ、広く希望や活力を広げていくものだとMTHは考えます。
 

義肢の歴史と現状

義肢の歴史は古く、記録に残るものはインドの医学書Rig-Vedaにあるもので、紀元前B.C.16~9世紀のものだと言われています。その後産業革命や数々の戦争を経て義肢の需要は増え、技術も進歩してきました。1920年代にドイツで大腿義足のソケットを木を削って作ることが試みられ、徐々に普及しはじめました。これが木製義足です。これが義足に2つの進歩をもたらしました。
1つは大腿切断の断端によく適合するようにソケットを作ると、ソケット自体が義足を懸垂する機能をもつことがわかったことです。これが吸着ソケットの始まりです。
他の1つは木製義足には支柱を用いないところから、木製ソケット、膝、足の部品を接着することで、三次元的にどのようにも組み立てられるということです。このことが義足の力学的理論すなわちアライメントの理論を著しく発達させました。 (※引用元:義肢と歴史の話
 
現在、脚を切断した人は5万人程度いるのですが、そのうち義足使用の保険申請が1万人程度。その中で、実際に義足を使って歩いたりしているのは、その半数程度だと言われています。
さらに義足でスポーツができる人は、数百人ほどという状況です。下肢切断の原因として、以前は交通事故などの外傷によるものが多くを占めていましたが、 日本では 1990年代から糖尿病を代表とする末梢循環障害によるものが急増し、60%以上を占めています。その結果、高齢者切断も増え、重複障害なども重なり、様々な機能の義足の要求が多くなっています。その他の原因としては、悪性腫瘍や感染、先天奇形などがあります。
現在全国で約 7000 本の身体障害者手帳交付による義足製作があり、労働者災害補償では4000本、その他の医療保険や厚生年金なども考えると修理を除き年間1万2000本以上の義足製作数となっているのです。
 

隠すから“魅せる”へ

012_01 技術の進歩と共に、義肢は、より快適に、便利に、機能的にという方向に進歩してきました。それは素晴らしいことですが、基本的に欠損した身体を“補完”するものという考えは変わらずにあります。
MTHが目指しているものは「アートとテクノロジーの融合によるソーシャル/パーソナル・スティグマの解消」です。既存の義手・義足は人体に似せて作られ、いわば身体の欠損を“隠す”ということに使われてきました。
MTHは義肢をアートなカタチにすることによって、隠すから魅せる(見せる)ということが可能になるような手伝いが出来たら、と思っています。
カタチはあくまでも触媒です。それには義肢のユーザーのメンタリティの変化が重要になってきます。美しいもの、カッコいいもの、健常者が羨ましがるようなデザインを纏うことがユーザーの自信になり、身体の欠損も含めて自分なのだ、というアイデンティティの確立の一助になりたい、というのがMTHの理念です。
 
医療機器から始まった“メガネ”が、ファッションアイテムにもなり、メガネをかける人の“顔の一部”、つまりはアイデンティティにまでなった例もあります。 012_05 3Dプリンタのデザインに対する自由度の高さはMTHにとってまさに理想的なツールです。カスタマイズされたワンオフの義肢を比較的安価に製造することができるからです。将来的には、個人の願望や理想を汲み取り、それをシェイプに落としこむことにより、拡張された身体感覚と個人のアイデンティティを融合していくことを私達は目指しています。 012_02

繋がることで広がるクリエイティビティ

現在MTHは既存の義足、棒状のパーツにMTHの形状を取り付けるアタッチメント方式の開発を進めています。将来的には全てのパーツを3Dプリンタを利用して製造していくことが理想です。それには素材の選定、開発による軽量化と高強度のバランスをとること、義肢の内部の補強構造を開発し、適切な強度を計算により割り出していくことが必要となっていきます。
012_03 MTH/XSENSEの根幹的な目的にはNo Boundary、色々なものの境界をなくしていくこと、があります。アートと技術、企業と企業、違った形態の業種etc、そうしたものの境界をなくしていくことにより、新しい方向の業務形態や社会貢献が生まれて来るでしょう。私達は境界を乗り越える原動力の“核”として、“アートの力”は最適なものだと感じます。
 
世界に眼を向けると3Dプリンタやその他の先端テクノロジーを利用した義肢の制作が色々始まっています。サンフランシスコのBespoke Innovations、オープンソースで子供たちにカラフルな義手を提供するE-nable、SONY CSL:遠藤謙氏が開発するロボット義足、電子義手を開発するExiii、Strarasysが協力している、Emmaちゃんの腕力補強器具等。こうしたプロジェクトは競合ではなく志を共にする仲間だとMTHは考えます。
テクノロジーを利用して障害をなくしていくという考え方/プロジェクトは広まれば広まるほど良いのです。考え方は同じでもMTHのデザイン/シェイプはオンリーワンのものですので、競合するよりはむしろそれぞれのプロジェクトで足りない部分を補完しあうことで、よりよいもの、より素敵なもの、そして様々なスタイルのものを創り出していけるのです。
こうした、シェア/助け合いの精神に基づいたプロジェクトのススメ方自体が21世紀的な、ポスト・モダンなビジネスの潮流になっていくものだと信じています。 012_06

“違い”にやさしいダイバース・コミュニティを目指して

ここまで書いて来ましたが、勿論MTH的な装飾義肢は���らない、というユーザーがいるでしょうし、それで良いのです。
しかし、ユーザーにとっての“選択肢”を増やしていく必要性は重要です。アートでファッショナブルな義肢を身につけることにより、身体の欠損を克服していく、という“選択”が出来るユーザーにとっての状況、多様性のある状況、を作り出すことが重要なのです。
 
義肢はテクノロジーの力のお陰で身体の補完から“身体の拡張”というステージへ進みました。そして身体の拡張は、意識の拡張に他なりません。MTHは身体の欠損を障害とは考えません。それは個と個の“違い”であり、他に対するほんの少しの寛容さとテクノロジーがあれば乗り越えられるものなのです。私達は心のこもったクリエイティブやアートな義肢を通じて、多様性を認めるダイバース・コミュニティ、“違い”に対して寛容な社会を創りだしていくNo Boundaryな活動をこれからも続けて行きます。

profile_kobayashi

XSENSE デジタル・アーティスト 小林武人
慶應義塾大学 環境情報学部卒。東京工科大学クリエイティブ・ラボ、株式会社ゴンゾを経てフリーランスに。3DCGモデリング/デザインのスペシャリスト。目に見えないモノ、感情、エネルギー、意識の次の次元などをカタチにすることがミッション。

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