3Dプリンタコラム

世界の事例に学ぶ、3Dプリンタの今とこれから 第2回

モノづくりのパラダイムシフトがついに始まった

2015年3月5日  執筆者:前田 健二

デスクトップマニュファクチャリング

多くの方はデスクトップパブリッシングという言葉をご存じだと思います。デスクトップパブリッシング(Desktop publishing)という言葉が一般化したのは、パソコンとプリンタ、特にカラーのインクジェットプリンタ、そして編集ソフトの三つが同時に普及し始めた1990年代初め頃と言われています。デスクトップパブリッシングが普及する前の世界では、印刷物は活字や写真などを手作業で組み合わせて版を作り、輪転機や印刷機で印刷して作られていました。ところが、パソコン、プリンタ、編集ソフトがそれぞれ進化を続け、ある瞬間からそれらを使って印刷を行うというパラダイムシフトが起こりました。そして、それぞれの価格低下と性能向上がさらに進み、あっという間にデスクトップパブリッシングが世界的に普及してしまったのです。

初期のデスクトップパブリッシングシステム

パラダイムシフトという言葉はまさにこのような状況の事を言うのでしょう。デスクトップパブリッシング以前の世界では、印刷職人が活字を拾い、体裁を整え、色の写りや見栄えなどを実際に目で確認して印刷を行っていました。一般の人から見れば印刷とはそうしたプロが行うものであり、素人が手を出せない世界でした。町中には印刷屋が点在し、印刷産業は安定した売上を確保していました。ところが、デスクトップパブリッシングが普及し始めると印刷業界は影響を受け始め、印刷職人は仕事を失い、町の印刷屋も廃業し始めたのです。


ところで、モノづくりの世界でも現在、これと同じようなパラダイムシフトが起きつつあります。それを関係者はデスクトップパブリッシングならぬデスクトップマニュファクチャリング(Desktop manufacturing)と呼んでいます。デスクトップマニュファクチャリングとは、文字通り机上でモノづくりを行うことです。では、なぜそのような事が可能なのでしょうか。また、なぜそのような事を行うのでしょうか。

デスクトップマニュファクチャリングは身近なところから

アメリカにフーバーという老舗の掃除機メーカーがあります。フーバーは1907年の設立以来、主に業務用高性能掃除機を開発、清掃業者に供給してきました。同社は近年家庭用掃除機市場にも参入し、特に高機能掃除機市場において相応のシェアを確保しています。同社は最近、インターネットの3Dモデル共有サイトのシンギヴァースに同社の掃除機用パーツの3Dデータを公開し、話題を集めています。

フーバーの掃除機用バッテリーマウント。3Dモデルはダウンロード出来る

フーバーはなぜこの3Dモデルをインターネットに公開したのでしょうか。答えは、3Dモデルを公開することでそれを必要とする人がダウンロード出来、ダウンロードした3Dモデルを3Dプリンタで出力して実際のパーツとして使ってもらえるからです。ここでのキーワードは三つです。3Dモデル、インターネット、そして3Dプリンタです。この三つが合わさってひとつの有機的なチェーンとして機能する時代になったのです。つまり、デスクトップマニュファクチャリングの時代の幕が開けたのです。


フーバーは現在、上述のバッテリーマウントの他、コードを巻くためのホルダー、懐中電灯用カバーといったパーツの3Dモデルをインターネットで公開しています。同社が今後他の3Dモデルを増やして行く事は間違いなく、そのトレンドはいずれ他社や他の業界にも拡がって行くでしょう。今、私達はほんの数年前まで想像も出来なかったような現在進行形のパラダイムシフトを体現しているのです。

フーバーの懐中電灯用カバー

デスクトップマニュファクチャリングはどこで花開くか?

デスクトップパブリッシングが印刷業界を一変させたように、デスクトップマニュファクチャリングは製造業を一変させる可能性があります。では、製造業の中でもどのような領域でデスクトップマニュファクチャリングは今後花開くでしょうか。


まず確実なのは家電業界です。上述のフーバーの事例が象徴していますが、家電の中でも消耗部品が多い製品市場は有望です。例えば掃除機の場合、ノズル、各種アタッチメント、ハンドル、プラグ等々、消耗部品だらけです。消費者からすれば、そうした消耗部品が壊れた場合ただちに手元に欲しい訳で、デスクトップマニュファクチャリングで速やかに手に入れられれば最高です。また、メーカーにとっても価格の安い消耗部品の注文を受け付け、梱包して発送する労力やコストは馬鹿になりません。このように、消費者・メーカーのいずれにも大きなメリットがある消耗部品付き家電の分野は、デスクトップマニュファクチャリングの普及領域のひとつとなることは間違いないでしょう。

カスタマイズ出来る領域も有望

オランダにフェアフォンというスマートフォンメーカーがあります。2010年設立の若い会社ですが、非常にユニークな経営を行っています。同社では同社のスマートフォンの外側カバーの3Dモデルを公開し、消費者がカスタマイズして3Dプリント出来るようにしています。同社の3Dモデルダウンロードページでは、同社の最新製品のカバーの3Dモデルや、社内デザイナーによる趣向を凝らしたデザインの数々の3Dモデルが公開されています。オランダは3Dプリンティングが盛んな国のひとつですが、オランダの消費者はこのようにして自分のスマートフォンを自分でカスタマイズして自作するようになって来ているのです。

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このように、デスクトップマニュファクチャリングの時代の幕は既に開いています。掃除機やスマートフォンのみならず、このトレンドは必ず他の領域にも拡がって行くでしょう。また、このトレンドは消費者市場だけでなく中小企業を含めた法人のモノづくりの現場にも確実に広がりつつあります。ベアリング、各種ボルト、ジグ、型、交換部品等々、実際のニーズに対応する形で次々と採用されています。過去のデスクトップパブリッシングの時と同じように、3Dプリンタ、3Dモデル、インターネットというプレーヤーがデスクトップマニュファクチャリングの世界を牽引し、広げて行く事は間違いないでしょう。

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前田 健二
1966年東京都生まれ。1990年大学卒業後渡米し飲食ビジネスを立上げ、帰国後内航海運企業、ネットマーケティングベンチャーなどの経営・起業に携わる。2001年より経営コンサルタントとして活動を開始。製薬会社の再生、ベンチャー企業の経営支援等を経て、現在は3Dプリンタビジネスを含む新規事業立上コンサルティングを行っている。

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