3Dプリンタコラム

ボーダー・クロッシングによるクリエイティブの未来 第1回

アートとしての3Dプリンタ デジタル・アートの可能性

2015年2月25日  執筆者:XSENSE 小林 武人

“重力”と“マテリアル”の限界から開放された造形

今回は、3Dプリンタをアート作品の制作に用いた実例と、その可能性についてご紹介します。

まず、私たちが取り組んでいるアートプロジェクト「XSENSE」についてご紹介させてください。XSENSEは美術家 坂巻善徳 a.k.a. senseとデジタル・アーティスト 小林武人(著者)のコラボレーションプロジェクトです。senseの描く絵を小林武人が3DCGを用いヴァーチャル立体化し、それを核に、アニメーション、プロダクト、プロジェクション・マッピング、そしてアートと幅広い作品を生み出しています。3Dプリンタはプロトタイピングなどプロダクトの分野で使われることが多いのですが、XSENSEではそのアートとしての可能性を探り続けています。

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デジタル・アートの特徴は「身体性の欠如」にあると言えます。“欠如”と言ってもネガティブなものではありません。XSENSEにおいてもsenseの絵を描くという行為はフィジカルなものですが、3DCGを用いてその絵を立体化する工程は完全にヴァーチャルなものです。ヴァーチャルな空間で作品制作を行うことにより、既存のアートがかならず直面しなければならなかった“重力”と“マテリアル”の限界から開放された造形を行うことができるのです。もちろん、3Dプリンタを用いて作品をマテリアライズすれば重力の制限をうけることになるのですが、制作の段階で重力に囚われるということはないのです。

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より純粋に、よりダイレクトに、精神を作品に投影できる

私は、ヴァーチャル空間はより純粋な“精神の場”だと捉えています。フィジカルな感覚を通さないことにより、精神の形をよりダイレクトに作品に投影していくことができると思っています。3DCGのソフトウェアも、筆やヘラ、ノミなど、伝統的なアートの技法で使われる物と同じ、ツールのひとつに過ぎません。


しかし、このツールは人間の精神とそのアウトプットであるアート作品をよりダイレクトに結びつけることができるツールなのです。このツールを習熟したものにとっては、伝統的なアーティストがフィジカルに行っていた作品との対話をヴァーチャルな感覚で行うことができるのです。禅やYOGAなどの瞑想の感覚に近いと言ってもいいかもしれません。

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現代のテクロノジーで、太古の生物に新たな生命を吹き込む

今回、XSENSEがストラタシス・ジャパンとのコラボレーションにより制作したのは『Siberia(サイベリア)』という作品です。シベリアで発掘された毛長マンモス、その全身骨格の3Dデータを元に、XSENESEが太古の生物に新たな生命を吹き込みました。senseが描き、3DCGを用い立体化されたパーツ群を埋め込まれたマンモスの骨格は“未来からきた化石”の様相を見せています。太古と現在をテクノロジーで繋ぎ、新しい未来をつくりだしていく、ということがこの作品のテーマの一つになっています。

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手作業で制作することが困難な造形をつくる

3Dプリントを“アート”分野で活用するにあたって意識したことは、「手作業で制作することが困難な形状」をつくるということです。マンモスの骨格データは細かく、脆い部分も多く、そこに手作業でパーツを付け足していくことは非常に困難な作業になります。しかし、3Dモデリング→3Dプリントというワークフローにより、従来では扱うことが難しかった細かいパーツ、また手や工具が届かなかった内側のパーツまで制作・改変することができるようになったのです。

異なったカテゴリーのデータを均質に扱う

もう一つの特徴としては、マッシュアップという手法を用いていることです。マッシュアップはもともと音楽用語で、“2つ以上の曲から片方はボーカルトラック、もう片方は伴奏トラックを取り出してそれらをもともとあった曲のようにミックスし重ねて一つにした音楽の手法 〔Wikipediaより〕”という意味です。


デジタルデータの特徴として、「異なったカテゴリーのデータを均質的に扱える」というものがあります。『Siberia』においては、従来ではそれを直接改変することがなかったであろうマンモスの骨格データと、新たに創りだされたパーツ群を等価値に扱うことができ、それらを混ぜあわせ、3Dプリンタで出力することにより、骨格のリアリティを保ったまま、新たな価値観をもったアート作品を生み出すことができました。


『Siberia』の出力に使用したObjet Connex3Dプリンタは3種のマテリアルを単一の高速プロセスで使用することができます。この作品も内側の骨格(白い部分)と外装を同時に出力しました。それにより、骨格の脆い部分も安全に出力できるということにとどまらず“氷の中に封じ込められたマンモス”というアート的な観点にも貢献しています。

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物質化したものには、それ自体の“強さ”がある

3Dプリンタは、デジタル・アートにとって革新的なツールです。今までデジタルで制作したアートを発表する主な手段は映像か画像でした。画像はキャンバスなどにプリントして“絵画”としてみせることができますが、それはイメージの中では3Dだったものを2Dの世界に落し込むという“情報の削減”でした。映像ではイメージの世界を360°見せることも可能ですが、それでもまだヴァーチャルな世界に留まっています。


3Dプリンタを用いることにより、イメージの世界/精神の形をよりダイレクトな形で現実世界にマテリアライズさせることができるようになったのです。物質化したものにはそれ自体の“強さ”があります。作品を作るアーティストのエネルギーはもちろんのこと、3Dプリントに用いられるナイロンや金属などの物質自体、プリントの際に使われる電気などのエネルギー、アーティストを取り巻き支えてくれている、家族、友人、企業の方々のエネルギー、そうしたもののどれが欠けても作品はマテリアライズされません。よって作品はそうした全てのエネルギーの総体、“エネルギーの結節点(ノード)”と呼べるものなのです。


ですから、マテリアライズした作品にはモノとしての強さがあるのです。物質は必ず壊れ、崩壊していく定めにあります。モノとしての作品はいつか必ず無くなっていく運命にあります。しかし、そこに結節し、蓄えられたエネルギーは、作品を観た人の精神に新たなエネルギーを生み出し、そこから新しいエネルギーの循環が始まっていくのです。


XSENSEは、アートとデジタルテクノロジー、3Dプリンタをはじめとした工業技術は非常に親和性の高いものであると捉え、それらを融合させた“ボーダー・クロッシング”により従来のアートの枠に収まらない、新しいカテゴリーを形作れると考えています。

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XSENSE デジタル・アーティスト 小林武人
慶應義塾大学 環境情報学部卒。東京工科大学クリエイティブ・ラボ、株式会社ゴンゾを経てフリーランスに。3DCGモデリング/デザインのスペシャリスト。目に見えないモノ、感情、エネルギー、意識の次の次元などをカタチにすることがミッション。

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