3Dプリンタコラム

世界の事例に学ぶ、3Dプリンタの今とこれから 第1回

アメリカ西海岸発 3Dプリンタのニュービジネス

2015年2月9日  執筆者:前田 健二

メイカームーブメントの時代が到来した

アメリカの著名コンサルタント、クリス・アンダーソンは自著「Makers」で新たな産業革命が到来し、私達一人ひとりがメイカーとなる時代、彼が言うメイカームーブメントの時代に突入すると予言しました。「Makers」が出版されたのは2012年9月。それから2年以上の時間が経ち、彼が予言した時代は、確実に到来しているように見えます。

メイカームーブメントの台頭を後押しした要素はいくつかありますが、何と言っても3Dプリンタの普及がその最大のものでしょう。性能向上と価格低下が進む3Dプリンタは、モノづくりの現場を筆頭にオフィスや家庭にまで入り始めました。そして、メイカーとなった人々が、様々なシーンで様々なニュービジネスを誕生させています。また、メイカームーブメントとともに、マスカスタマイゼーションという、新しいパラダイムが台頭してきています。

ユーザーに最適化させた義足を製造

~ビースポーク・イノベーションズの事例~

サンフランシスコの中心から少し南に外れた、住宅街とオフィス街が入り混じったエリアに拠点を置くベンチャー企業、ビースポーク・イノベーションズ。サンフランシスコは現在、3Dプリンタビジネスを展開するベンチャー企業が集積するある種の3Dプリンタビジネスコミュニティのような様相を呈しつつあります。同社はその中でも現在全米でもっとも注目を集めている3Dプリンタベンチャー企業のひとつです。


創業者は、アメリカの工業デザインの権威、スコット・サミット氏。スコット氏は、工業デザインとアディティブ・マニュファクチャリングの研究実績を誇り、スタンフォード大学、カーネギーメロン大学といった名門大学で工業デザインの教鞭をとる傍ら、アップル、ナイキ、Palmといったナショナルブランドのプロダクトデザインを手がけ、名声を博してきました。


ビースポーク・イノベーションズは、義足のカバー(フェアリング)および義足を3Dプリンタで製造しています。義足は通常、金属のパーツを組み合わせてつくりますが、見た目は決して美しいとは言えない、工業的なデザインの物がほとんどです。スコット氏は、その義足の周辺をカバーで覆って、あたかも普通の足のように見せられないかと考え、3Dプリンタで義足カバーを製造するビジネスモデルを思いつきました。やがてスコット氏は、義足カバーから義足そのもの、そして、他の人体用部品の3Dプリンタによる製造へとビジネスを拡大させていきます。

彼らのビジネスモデルはシンプルです。まず、義足を必要とする人はサンフランシスコにあるスタジオを訪れ、健常なほうの足を3Dスキャンします。スキャンされたデータは同社オフィスに送られ、社内のデザイナーが3DCADソフトを使って義足の3Dデータを作成。そして、3Dプリンタを使って最終製品である義足を製造します。

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このビジネスモデルの最大のメリットは、ユーザー一人ひとりに合わせてそれぞれに最適な義足をカスタマイズできる点です。従来なら、義足メーカーはある程度汎用的なサイズを何種類か用意し、ユーザーはその中から自分に近いものを選ぶことしかできませんでした。別の言い方をすると、ユーザーがメーカーの規格に無理やりに合わせる必要がありました。しかし、ビースポーク・イノベーションズの義足は、ユーザー一人ひとりに合わせてつくるため、最適な義足を提供することが可能なのです。このように、ユーザーそれぞれの個性や特徴に合わせて一つずつカスタマイズして製造することを「マスカスタマイゼーション」と言います。3Dプリンタは、そのマスカスタマイゼーションを実現させた、極めて革新的な今日の利器なのです。

メイカー達が次々とビジネスを生み出す場

~テックショップの事例~

テックショップは、米カリフォルニア州メンローパークに本社を置く、現在成長中のハッカースペースです。サンフランシスコ、デトロイト、ピッツバーグ、ロサンゼルスなど、全米9都市でハッカースペースを運営しています。


ハッカースペースとは、簡単にいうとモノづくりを行うすべての人に解放されたオープン型の製造拠点です。アメリカでは都市部を中心にハッカースペースが増加しており、メイカー達にモノづくりの環境を提供しています。テックショップは、アメリカ最大のハッカースペースです。

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テックショップは会員制で、メンバーは月125ドル(約15,000円)程度の会費を払って利用します。店内には最新の3Dプリンタやレーザーカッターを始め、CNCミリングマシン、ガス溶接機、プラズマカッター、ウォータージェットカッターなどが装備され、会員はそれらを自由に利用できます。


数ある製造機器の中でも特に人気なのは3Dプリンタとレーザーカッターです。テックショップのメンバーの約3分の1がテックショップでモノづくりをして生計を立てていると言われていますが、そうしたプロのメイカーは3Dプリンタとレーザーカッターを使って様々なモノをつくり、シェイプウェイズやエッツィーなどで販売してビジネスにしています。

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テックショップで生計を立てるメイカー達は、まずテックショップで試作品をつくり、それをキックスターターなどのクラウドファンディングサイトで公開して出資者を募り、出資者が集まったら再びテックショップでモノづくりを行うというプロセスで仕事をしています。以前であれば、試作品の製造にはそれなりのコストとリソースが要求されましたが、3Dプリンタが普及した今日では、以前よりも安く早く試作品を作ることが可能になりました。また、クラウドファンディングの普及により資金調達も迅速に行えるようにもなり、今日のメイカーズの台頭を後押ししています。テックショップ・サンフランシスコのスタッフのお話では、同施設だけで年間300〜400人の人が新たなビジネスを立上げているそうです。

モノづくりは再び、グローバルからローカルへ

アメリカでは現在、それぞれの地域においてローカルにモノづくりをしようという機運が高まってきています。3Dプリンタがローカルなモノづくりを可能にしつつあるからです。例えば、ある製品を大量のロットで製造したいという場合は中国に製造委託した方が安く済むかもしれません。しかし小ロットで製造したいという場合であれば、今日ではローカルでモノづくりをしてしまった方がはるかに安く済むようになりました。3Dプリンタの登場は、人々にメイカーとなる可能性を提供したのみならず、製造業にとってもローカルなモノづくりへの回帰を実現させるツールとなりつつあるのです。

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前田 健二
1966年東京都生まれ。1990年大学卒業後渡米し飲食ビジネスを立上げ、帰国後内航海運企業、ネットマーケティングベンチャーなどの経営・起業に携わる。2001年より経営コンサルタントとして活動を開始。製薬会社の再生、ベンチャー企業の経営支援等を経て、現在は3Dプリンタビジネスを含む新規事業立上コンサルティングを行っている。

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